漢方薬の処方は、陰陽理論にもとづかなければなりません。
大局的にいえば、陰証の人にはエネルギーを補う方剤を、陽証の人にはエネルギーを使わせ病因を追い出す方剤を用います。
もし誤って、陰の人にエネルギーを消費させる処方を用いれば、効果がないばかりか、かえって体を弱らせてしまいます。
基本的な八網分類の使い分けは次のようになりす。
表証には → 発散薬(麻黄剤など体の表面の病因を発散させる方剤)
裏証には → 裏証用薬(麻黄剤などを除く多くの方剤)
熱証には → 寒性薬(熱や炎症をとり、機能の亢進をしずめる方剤)
寒証には → 温性薬(体をあたため、機能を高める方剤)
実証には → 瀉性薬(体内のエネルギーを消費させ、そのパワーで病因を追い出す方剤)
虚証には → 補性薬(エネルギーを補い、病気と戦うパワーをつける方剤)たとえば、カゼのひき始めでゾクゾク寒気がするときは、表・寒の証になります。
したがって、発散性の温性薬が向くことになります。
その代表が葛根湯(カッコントウ)です。
この有名な方剤は体力が中程度以上の人に広く用いることができます。
もし、体力の充実した明らかな実証であれば、強い発散性の麻黄湯(マオウトウ)も使われます。
逆に、汗のでやすい体力のない虚証の人には、麻黄を含まない補性の桂枝湯(ケイシトウ)を用いなければなりません。
カゼをこじらせると、表証から裏証に移ります。
ノドの奥に痰がからみ、胸やミゾオチに違和感を生じたりします。
咳も胸からでるようになり、気管支炎を起こしていることもあります。
半表半裏のこの段階は、柴胡剤のよい適応です。
その代表が小柴胡湯(ショウサイコトウ)で、体力が中程度の人に用いることができます。
もし、がっちりタイプで便秘がちの実証であれば大柴胡湯(ダイサイコトウ)を使うことになります。
逆に虚証の人には、より補性の方剤、たとえば柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)や柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)を用います。
もし咳がひどければ、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)や、これに小柴胡湯を合わせた柴朴湯(サイボクトウ)なども使われます。
半夏厚朴湯には、上昇する"気"をしずめる作用があるといわれます(咳は“気”の上昇の一つの表れ)。
このように、カゼだけに限っても、証に合わせていくつもの方剤を使い分けなければなりません。
同じ病気でも、人により、また時期により処方する漢方薬が違うのです。