めまい(漢)

▼めまい向け方剤-1
苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)、半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)めまいの治療にもっともよく使われているのが、これらの方剤です。水分循環をよくすることで、めまいの原因である水分の停滞や偏在(水毒)を取り去ります。もし、めまいや立ちくらみ症状が中心ならば前者を、めまいのほか吐き気や嘔吐・頭痛などがひどければ後者を用います。

▼めまい向け方剤-2
五苓散(ゴレイサン)、女神散(ニョシンサン)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)五苓散は利尿作用をもつ代表的な方剤です。口渇と尿量減少を主要目標とし、めまいや頭痛、吐き気や嘔吐などによく処方されます。女神散と加味逍遙散はどちらかというと女性向けで、月経トラブルや産前産後の血の道症、更年期障害などが背景にある場合に適します。また、漢方でいう“血虚”いいかえれば貧血症状をともなうのなら、当帰芍薬散など補血薬の部類も処方候補です。

不眠症(漢)

▼不眠症向け方剤-1
酸棗仁湯(サンソウニントウ)不眠症に広く用いられているのが酸棗仁湯です。その名前は、催眠作用があるとされる“酸棗仁”という生薬から名付けられました。体力のない虚証の人で、心身が疲労しているにもかかわらず、神経が高ぶりなかなか眠れないようなときに用いるとよいです。

▼不眠症向け方剤-2
柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)、柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)、桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)前項の心身症でもとりあげた方剤で、使い分けも同様です。熱・実証向けの柴胡加竜骨牡蛎湯、それより虚証向けの柴胡桂枝乾姜湯、もっと虚証ならば桂枝加竜骨牡蛎湯を用います。加味逍遙散は、不眠のほか、冷えのぼせ、頭痛や肩こり、めまい、動悸など不定愁訴の多い女性に最適です。もし、のどがつまる感じがして、抑うつや不安感をともなうのなら半夏厚朴湯を選ぶとよいでしょう。

▼不眠症向け方剤-3
黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)、大柴胡湯(ダイサイコトウ)、抑肝散(ヨクカンサン)、抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)、帰脾湯(キヒトウ)、加味帰脾湯(カミキヒトウ)、竹じょ温胆湯(チクジョウンタントウ)体力が充実した熱・実証タイプの不眠には、黄連解毒湯や三黄瀉心湯あるいは大柴胡湯なども使います。黄連解毒湯は便秘のない場合に、後者は便秘がちな人に適します。ほかに、イライラして怒りっぽく、寝つきが悪いようなときには、抑肝散や抑肝散加陳皮半夏を、貧血症状をともなうときには帰脾湯や加味帰脾湯を、胃弱な人で夜間の咳で眠れないようなときには竹じょ温胆湯などの処方も考えられます。

貧血(漢)

▼貧血向け方剤
四物湯(シモツトウ)、帰脾湯(キヒトウ)、加味帰脾湯(カミキヒトウ)、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)、人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)漢方には、貧血と同じ意味合いの“血虚”(けっきょ)という考え方があります。四物湯は、“血虚”に対するもっとも基本的な処方で、皮膚や唇がかさつくなど燥証を目安に用います。ただし、この方剤は胃もたれを起こしやすいので、もし、胃があまり丈夫でないのなら帰脾湯や加味帰脾湯のほうがよいかもしれません。当帰芍薬散は、冷え症で貧血気味、顔色が蒼白く、生理不順をともなう女性にぴったりな処方です。ほかに、“血虚”と“気虚”の両方を治す方剤として十全大補湯があげられます。貧血症状を改善するとともに、体力と気力を補い、元気をとりもどすのを助けます。具体的には、顔色が悪く疲労衰弱がひどいとき、あるいは病中・病後、手術後などで体力が弱っているときに用いられます。人参養栄湯も同様ですが、咳がでたり、イライラや不眠・物忘れなど精神症状を伴うときには、こちらのほうが適当です。

心身症(漢)

▼心身症向け方剤-1
柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)、柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)、桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)これらは、心身症や神経症、抑うつ症状に用いる代表的な方剤です。神経の高ぶりや緊張感、不安感をしずめて、心と体の状態をよくします。柴胡加竜骨牡蛎湯は、わりと体力があり、熱証で、ミゾオチから肋骨下部が張っている胸脇苦満(きょうきょうくまん)を目安に用います。柴胡桂枝乾姜湯も同様に用いますが、より虚証向けです。やせ型で明らかに虚証とみられるのなら、桂枝加竜骨牡蛎湯が適当です。加味逍遙散は、イライラや不眠、自律神経の不調による冷えのぼせ、頭痛や肩こり、めまい、動悸など不定愁訴の多い女性に最適です。半夏厚朴湯は、のどのつかえ感を使用目標とし、憂うつ感や不安感のある人に用いるとよいでしょう。

▼心身症向け方剤-2
苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)、きゅう帰調血飲(キュウキチョウケツイン)、抑肝散(ヨクカンサン)、抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)、九味檳ろう湯(クミビンロウトウ)、清心蓮子飲(セイシンレンシイン)、帰脾湯(キヒトウ)、加味帰脾湯(カミキヒトウ)“めまい”をともなうときには苓桂朮甘湯を用いることがあります。きゅう帰調血飲は、月経トラブルや産後の心身の不調、いわゆる「血の道症」によい方剤です。また、イライラして怒りっぽく、寝つきが悪いようなときには、抑肝散や抑肝散加陳皮半夏を用いるとよいかもしれません。ほかに、動悸が気になるのなら九味檳ろう湯を、頻尿や残尿感など排尿トラブルがあれば清心蓮子飲を、また、貧血症状をともなうときには帰脾湯や加味帰脾湯の処方も考えられます。

更年期障害(漢)

▼駆お血薬
加味逍遙散(カミショウヨウサン)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、通導散(ツウドウサン)、大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)更年期障害は、女性ホルモンの急激な変化に体がついていけない状態です。ほてり、冷え、汗、動悸、イライラ、くよくよ、肩こり、頭痛などいろいろな症状をともない、人によっては耐えがたい苦痛になります。そのような多愁訴にいちばんよく使われるのが加味逍遙散です。加味逍遙散は、体のあまり丈夫でない虚証向け方剤で、ことに上熱下寒いわゆる“冷えのぼせ”を主要目安に用います。もし、下腹部に圧痛を認めるなど“お血”(血流停滞)の所見があるのなら、桂枝茯苓丸や桃核承気湯、あるいは通導散や大黄牡丹皮湯なども処方候補です。桂枝茯苓丸は体力が中くらいの女性向け、その他は便秘がちで体力のある熱・実証タイプに用います。

▼補血薬
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、四物湯(シモツトウ)、温経湯(ウンケイトウ)、温清飲(ウンセイイン)女性の聖薬ともいわれる当帰芍薬散は、色白で冷え症、やせ型で体力のない人に最適です。むくみや胃がチャポチャポするなど湿証であることも使用目安です。逆に、皮膚や唇がカサカサ乾燥しやすい燥証の人には、四物湯か温経湯がよいかもしれません。

▼その他
柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)、柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)、桂枝加竜骨牡蛎湯、女神散(ニョシンサン)、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)、五積散(ゴシャクサン)、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)など肋骨下部の張りなど胸脇苦満(きょうきょうくまん)が認められるなら、柴胡剤(サイコザイ)の部類も使います。ことに柴胡加竜骨牡蛎湯は、イライラ感や不安感、不眠など神経症状が強いときに適します。柴胡桂枝乾姜湯も同様に用いますが、より虚証向けです。ほかに、桂枝加竜骨牡蛎湯や女神散、半夏厚朴湯なども、更年期にともなう心身の不調に使われます。五積散は、腰痛や関節痛など体のあちこちが冷えて痛むときに用いるとよいでしょう。

冷え症(漢)

▼補血薬
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、四物湯(シモツトウ)冷え症は寒・虚証であることが多いので、体を温め体力をつける温性で補性の方剤を用いるのが基本です。また、“血虚”(けっきょ)を伴う場合には、補血作用のある処方で対処します。当帰芍薬散は代表的な「温性補血薬」で、色白でやせ型、貧血気味で体力のない女性の冷え症に最適です。四物湯は皮膚が乾燥しやすいなど燥証を目安に用いますが、胃腸の弱い人には不向きです。

▼駆お血薬
桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)これらの方剤は、いわゆる“冷えのぼせ”、言いかえれば手足が冷えるのに顔がほてりのぼせ気味、そんな人に適します。このような場合、漢方でいう“お血”(血流停滞)がかかわっていることが多く、第一の処方候補として血の巡りをよくする「駆お血薬」が考えられるわけです。桃核承気湯は、寒性の「駆お血薬」で、便秘がちで体力のある熱・実証タイプに向く方剤です。桂枝茯苓丸は、それほど証にこだわらず、体力が中くらいの人に広く適応します。もし、不眠やイライラなど不定愁訴があるのなら、加味逍遙散がもってつけです。

▼その他
人参湯(ニンジントウ)、真武湯(シンブトウ)、五積散(ゴシャクサン)、苓姜朮甘湯(リョウキョウジュッカントウ)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)、八味地黄丸(ハチミジオウガン)、牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)人参湯は、冷え性で胃腸の弱い寒・湿・虚証向けの方剤です。真武湯は、さらに虚弱で腹部の冷えが強く下痢を起こしやすい人に用います。もし、足腰が冷えて痛むようであれば、五積散か苓姜朮甘湯がよいでしょう。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、手先がひどく冷え、しもやけができやすい人に向きます。八味地黄丸と牛車腎気丸は、足腰の冷えや痛み・しびれ、夜間頻尿などを伴う高齢の男性に向く方剤です。

排尿トラブル(漢)

▼排尿トラブル向け方剤
猪苓湯(チョレイトウ)、猪苓湯合四物湯(チョレイトウゴウシモツトウ)、五淋散(ゴリンサン)、竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)、清心蓮子飲(セイシンレンシイン)、きゅう帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)猪苓湯は、頻尿、残尿感、血尿など排尿トラブル全般に広く用いられています。もし症状が長びき、貧血症状や皮膚のカサツキがみられる場合には、四物湯を合方した猪苓湯合四物湯を選ぶとよいでしょう。五淋散は、熱感や痛みをともなう炎症性の尿路疾患に向く方剤です。さらに症状の強い熱・実証者向け方剤として竜胆瀉肝湯があげられます。逆に、炎症は弱く、精神的な要因が強い場合には、虚証・気虚向けの清心蓮子飲を用いるとよいでしょう。きゅう帰膠艾湯は、血尿に対して単独もしくは他の方剤と併用します。

▼腎気丸
八味地黄丸(ハチミジオウガン)、六味丸(ロクミガン)、牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)これら腎気丸の仲間も、排尿異常によく用いる漢方薬です。ことに、高齢の人の夜間頻尿や多尿、乏尿、残尿感などにもってつけです。おおまかな使い分けは、冷えのある寒証には八味地黄丸を、そうでないのなら六味丸を用います。牛車腎気丸は、八味地黄丸に利尿作用をもつ牛膝(ゴシツ)と車前子(シャゼンシ)を加えたもので、尿量減少やむくみのあるときに向きます。腎気丸は胃にもたれることがあるので、胃腸の弱い人は慎重に用いるようにします。

不妊症(漢)

▼補血薬
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、四物湯(シモツトウ)、温経湯(ウンケイトウ)、十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)冷え症で貧血ぎみ、体力のあまりない寒・虚証タイプには、これらの「補血薬」を用います。当帰芍薬散はその代表で、不妊症にいちばんよく処方されています。むくみや胃がチャポチャポするなど湿証であることも使用目安です。逆に、皮膚や唇がカサカサ乾燥しやすい燥証の人には、四物湯か温経湯が適します。十全大補湯は、病中病後などにおける体力の回復を助け、妊娠しやすい状態にもっていきます。

▼駆お血薬
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)下腹部に圧痛を認めるなど“お血”(血流停滞)の所見があるのなら、「駆お血薬」が試みられます。桂枝茯苓丸は、体力が中くらいの女性を中心に広く使われています。桃核承気湯と大黄牡丹皮湯は、便秘がちで体力のある熱・実証タイプ向けです。加味逍遙散は、頭痛や肩こり、のぼせ、足の冷え、不眠など不定愁訴の多い女性に好んで用いられます。

▼その他
柴苓湯(サイレイトウ)柴苓湯にはステロイド様の免疫調整作用のほか血小板凝集能抑制作用があるとの報告があります。そこで、抗リン脂質抗体価が陽性の不育症(習慣流産)の治療に応用されることがあります。ステロイド薬のような強い作用は期待できませんが、副作用はほとんどありません。

月経トラブル(漢)

▼駆お血薬
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、通導散(ツウドウサン)、大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)漢方では月経トラブルを“お血”(おけつ)という概念でとらえます。“お血”とは、血流の停滞(うっ血、腫れ)とみることができ、出血にもつながるものです。また、腹症においては下腹部の抵抗・圧痛を主要目安とします。生理痛や生理不順、過多月経などの月経トラブルには、この”お血”を改善する「駆お血薬」が処方されるものです。桂枝茯苓丸は、体力が中くらいの人を中心に広く使われています。桃核承気湯と通導散、大黄牡丹皮湯は、便秘がちで体力のある熱・実証タイプ向けです。加味逍遙散は、頭痛や肩こり、のぼせ、足の冷え、不眠など不定愁訴の多い女性に好んで用いられます。

▼補血薬
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、四物湯(シモツトウ)、温経湯(ウンケイトウ)、温清飲(ウンセイイン)、きゅう帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)、十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)“お血”のほか“血虚”(けっきょ)という考え方もあります。これは血液不足による体調不良で、顔色が蒼白いなどある種の貧血症状とみなせます。この場合、生理が遅れたり少なくなることが多く、ときに無月経・無排卵となり不妊の原因にもなりかねません。このような“血虚”の状態には、「補血薬」の部類が適当です。当帰芍薬散は女性の聖薬ともいわれ、色白で冷え症、やせ型で体力のない人の生理痛や生理不順に最適です。四物湯と温経湯は、皮膚や唇がカサカサ乾燥しやすいなど燥証を目安に用います。きゅう帰膠艾湯は多少使用目標が異なり、過多月経を含め出血にともなう貧血症状に用いることが多いです。

▼その他
芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)、防已黄耆湯(ボウイオエギトウ)、五積散(ゴシャクサン)、当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)、女神散(ニョシンサン)、きゅう帰調血飲(キュウキチョウケツイン)、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)、大柴胡湯(ダイサイコトウ)、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)など芍薬甘草湯は、証にかかわらず生理痛の緩和目的に広く処方されます。五積散は体のあちこちが冷えて痛むときに、当帰建中湯は疲れやすく貧血ぎみな女性の生理痛に適します。防已黄耆湯は、汗かきで水ぶとりタイプ、冷え性で月経が少な目の人にもってつけでしょう。また、気分の落ち込みなど精神的な不調がみられる場合には、女神散や半夏厚朴湯も使われます。ほかに、熱・実証者の過多月経に黄連解毒湯や三黄瀉心湯を、熱証で胸脇苦満(きょうきょうくまん)があれば大柴胡湯や柴胡桂枝湯なども用います。

ニキビ(漢)

▼ニキビ向け方剤
清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、桂枝茯苓丸加よく苡仁(ケイシブクリョウガンカヨクイニン)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)など清上防風湯は熱・実証向けです。“清上”とは、体の上部を清涼にするという意味です。つまり、上半身、ことに顔の熱や炎症をさます作用が期待できるわけです。顔色のよい元気な人で、きれいな赤色のニキビが多いときに最適です。紫がかったニキビが目立つときは、漢方でいう“お血”いいかえれば血行不良を治す方剤が使われます。ガッチリタイプで便秘がちならば実証用の桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)を、そうでないのなら桂枝茯苓丸を用います。これらは、月経トラブルを起こしやすい女性向きの方剤ですか、男性にも使用できます。加味逍遙散は熱・虚証用で、のぼせ、イライラ、生理不順などがある場合に適します。当帰芍薬散は、顔色の蒼白い寒・虚証タイプに用いる方剤です。ニキビの治療には、これらの基本処方に「よく苡仁(ヨクイニン)」を加えることがあります。桂枝茯苓丸加よく苡仁がその代表です。よく苡仁はイネ科のハトムギの種子で、肌をきれいにする作用があるといわれます。

じん麻疹(漢)

▼表証向け方剤
越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)、白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)、十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)、葛根湯(カッコントウ)、香蘇散(コウソサン)急性のじん麻疹は皮膚が水ぶくれ状態になりますので、その多くは表証で湿証にあたります。これを改善するのは、発散性の燥性の方剤です。さらに、熱証には熱をさます涼性の方剤を、寒証には体をあたためる温性の方剤を使い分けるようにします。熱証かどうかは、体全体の様子とともにじん麻疹の状態で判断します。丘湿が赤く熱をおびていれば熱証、そうでないのなら寒証とみなす要素です。越婢加朮湯は熱証で体力が中くらい以上の人の急なじん麻疹に最適です。もしも、丘湿が小さく湿証の所見がなければ、口が渇くことを使用目標に白虎加人参湯の処方も考慮してよいでしょう。一方、寒証に向くのが十味敗毒湯です。この方剤はそれほど証にこだわらず、じん麻疹を含めいろいろな皮膚病に広く処方されています。そのほか、悪寒や肩こり、ふしぶしの痛みなどがあれば葛根湯を、また魚中毒によるじん麻疹には香蘇散を用いるとよいようです。

▼裏証向け方剤
消風散(ショウフウサン)、茵ちん五苓散(インチンゴレイサン)5200073、十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)、小柴胡湯(ショウサイコトウ)、大柴胡湯(ダイサイコトウ)、防風通聖散(ボウフウツウショウサン)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、茵ちん蒿湯(インチンコウトウ)体の表面に生じる一過性のじん麻疹は、基本的に表証です。けれど、慢性に推移する場合、体内の病因も深くかかわるので、より裏証の側面を持ちます。この場合、体質を改善する方剤が重要となってきます。消風散は、熱証で中間証以上に用いる方剤で、とくに熱感やカユミが強いときに適します。茵ちん五苓散は、体力が中くらいの人で、口が渇き尿量が少ないことを目安に用いるとよいでしょう。寒証では、急性期に引き続き十味敗毒湯もよく使われます。そのほか、体質改善を目的に、胸脇苦満があれば小柴胡湯や大柴胡湯を、太鼓腹で肥満ぎみの人には防風通聖散を、また月経トラブルや“お血”の所見があれば、駆お血薬の桃核承気湯や桂枝茯苓丸なども処方されます。これらと、肝臓の働きを助ける茵ちん蒿湯との併用も考えられます。

湿疹(漢)-2

▼裏・熱証向け方剤
荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)、治頭瘡一方(ヂズソウイッポウ)、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)、消風散(ショウフウサン)、温清飲(ウンセイイン)、竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)、柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)、小柴胡湯(ショウサイコトウ)、大柴胡湯(ダイサイコトウ)、防風通聖散(ボウフウツウショウサン)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、茵ちん蒿湯(インチンコウトウ)体の表面の皮膚病は、基本的に表証です。けれど、慢性に推移する場合、体内の病因も深くかかわるので、より裏証の側面を持ちます。この場合、体質を改善する方剤、ことに“お血”(うっ血)や便秘、肝機能を改善するような方剤が重要となってきます。荊芥連翹湯と治頭瘡一方は、表証にかぎらず慢性の皮膚病にも用いられます。やはり熱証で中間証以上を目安とします。黄連解毒湯は、赤ら顔で、のぼせのある熱・実証用の方剤です。消風散も熱・実証用で、ジュクジュクしたカユミの強い湿疹に最適です。一方、温清飲はより虚証向けで“お血”と燥証を使用目標とします。いいかえれば赤ないし赤紫色をした分泌物の少ない乾燥した湿疹に向くといえるでしょう。一般的ではありませんが、陰部の強いカユミや湿疹に竜胆瀉肝湯を用いることがあります。柴胡清肝湯は、いわゆる腺病質で、皮膚が赤黒く、のどの腫れを起こしやすい子供の湿疹に向く方剤です。そのほか、体質改善を目的に、胸脇苦満があれば小柴胡湯や大柴胡湯を、太鼓腹で肥満傾向の人には防風通聖散を、また月経トラブルや“お血”の所見があれば、駆お血薬の桃核承気湯なども用いられます。これらと、肝臓の働きを助ける茵ちん蒿湯との併用も考えられます。

▼裏・寒証向け方剤
十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)、当帰飲子(トウキインシ)、温経湯(ウンケイトウ)、八味地黄丸(ハチミジオウガン)、防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)裏証においても、やはり十味敗毒湯が繁用されますが、その他の方剤も証に合わせて処方されます。当帰飲子は、乾燥肌でカユミの強いときに用いる虚証用の方剤です。温経湯は、冷え症なのに手先がほてる症状を目安に、指掌角皮症の治療に用いることがあります。そのほか体質改善の目的を含めて、下半身の衰えた高齢の人に八味地黄丸を、また、汗かきで水ぶとりタイプの皮膚病やあせもに防已黄耆湯を用いたりします。また、月経トラブルや“お血”の所見があれば駆お血薬の桂枝茯苓丸なども処方考慮されます。

湿疹(漢)-1

▼表・熱証向け方剤
荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)、治頭瘡一方(チヅソウイッポウ)、越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)表証、いいかえれば急性期の湿疹には発散性の方剤が適します。このうち、熱証には熱をさます涼性の方剤を、寒証には体をあたためる温性の方剤を用います。熱証かどうかは、体全体の様子とともに湿疹の状態で判断します。赤く熱をおびた湿疹、つまり炎症の強い湿疹は熱証とみなす要素です。荊芥連翹湯は熱証で体力が中くらいの人に、また、治頭瘡一方は子供の顔や頭の湿疹に好んで用いられます。もし、分泌物の多いジュクジュクした湿疹で水毒(湿証)の所見があれば、越婢加朮湯が適当です。

▼表・寒証向け方剤
十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)、葛根湯(カッコントウ)、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、桂枝湯(ケイシトウ)、桂枝加黄耆湯(ケイシカオウギトウ)十味敗毒湯はそれほど証にこだわらず、いろいろな皮膚病に広く処方されます。ことに、発赤しても分泌物が少ないもの、あるいは化膿をともなう皮膚病の治療に適します。そのほか、もし、悪寒や肩こり、ふしぶしの痛みなどがあれば葛根湯を、湿証でジュクジュクしている湿疹や水疱がみられれば小青竜湯の処方も考えられます。桂枝湯は体力があまりなく汗の出やすい人に向く方剤で、これに黄耆を加えた桂枝加黄耆湯は“あせも”に適応します。

頭痛(漢)

▼頭痛向け方剤-1
葛根湯(カッコントウ)、桂枝湯(ケイシトウ)、桂枝加葛根湯(ケイシカカッコントウ)、川きゅう茶調散(センキュウチャチョウサン)、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)カゼなどによる急な頭痛には、葛根湯や桂枝湯、桂枝加葛根湯、もしくは川きゅう茶調散が適します。葛根湯は体力が中くらい以上の人で、悪寒をともなうときに広く用いることができます。一方、桂枝湯は体力があまりなく汗の出やすい人に向く方剤です。川きゅう茶調散は、女性の生理や更年期あるいは産後に生じる心身の不調、いわゆる「血の道症」にともなう頭痛にも適します。 カゼをこじらせ、頭痛や頭重感が長びくときは、柴胡桂枝湯や柴胡桂枝乾姜湯を用います。

▼頭痛向け方剤-2
五苓散(ゴレイサン)、呉茱萸湯(ゴシュユトウ)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)、半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)、苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)五苓散は、口が渇き、ムカムカ吐き気がするときに向く方剤で、片頭痛をはじめ二日酔いや乗り物酔いの頭痛に用います。ただし熱証用なので、冷えの強い人には向きません。冷え症、ことに足の冷えが強く吐き気をともなうときには呉茱萸湯がよいでしょう。半夏白朮天麻湯と苓桂朮甘湯は、“めまい”をともなう頭痛によく処方されます。

▼頭痛向け方剤-3
桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)、五積散(ゴシャクサン)、釣藤散(チョウトウサン)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)ふだんから胃が弱く虚弱な人の常習頭痛によく用いられるのが桂枝人参湯です。もし、体力が中くらいで、体のあちこちが冷えて痛むときには五積散がよいかもしれません。釣藤散は、高血圧や動脈硬化にともなう慢性的な頭痛や頭重感に適します。加味逍遙散は、頭痛を含め更年期や生理前後のいろいろな症状、いわゆる不定愁訴を改善する女性向け方剤です。

肩こり(漢)

▼肩こり向け方剤-1
葛根湯(カッコントウ)、桂枝加葛根湯(ケイシカカッコントウ)、葛根加朮附湯(カッコンカジュツブトウ)肩こりには、葛根湯に代表される葛根含有製剤を用いることが多いです。ただし、いずれも冷えや悪寒をともなう寒証用方剤ですので、暑がりで熱のこもっている人には向きません。葛根湯は寒証で体力が中くらい以上の人に広く用いることができます。桂枝加葛根湯は、汗が出やすく体力のあまりない人に向く方剤です。冷えの強いひどい寒証の人には葛根加朮附湯がよいでしょう。

▼肩こり向け方剤-2
大柴胡湯(ダイサイコトウ)、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)柴胡剤(サイコザイ)の仲間は、熱証でミゾオチから肋骨下部が張っている胸脇苦満(きょうきょうくまん)を目安に用います。大柴胡湯は、胸脇苦満が強く便秘がちな実証タイプに向く方剤です。柴胡桂枝湯は、体が少し弱い虚証向けになります。もし、いらいらや不安感、不眠など神経症状をともなうときには、柴胡加竜骨牡蛎湯も適応します。

▼肩こり向け方剤-3
桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)、二朮湯(ニジュツトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)桂枝人参湯は、ふだんから胃が弱く虚弱な人の常習性の肩こりや頭痛に用いられます。二朮湯は、五十肩を正式な適応とする方剤です。桂枝茯苓丸は血のめぐりを改善する方剤で、血行をよくするのを助けます。加味逍遙散は、肩こりを含め更年期や生理前後のいろいろな症状、いわゆる不定愁訴を改善する女性向け方剤です。

神経痛(漢)

▼表証向け方剤
越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)、桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)、葛根湯(カッコントウ)、麻杏よく甘湯(マキョウヨクカントウ)これらは急性期に適する表証向け方剤です。顔色がよく暑がりの人には越婢加朮湯を、冷えをともなう体の弱い人には桂枝加朮附湯を用います。葛根湯は、首から肩・背中が痛むときや三叉神経痛にも適応します。

▼柴胡剤
大柴胡湯(ダイサイコトウ)、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、柴苓湯(サイレイトウ)柴胡剤の仲間は、胸脇苦満のみられる肋間神経痛などに用いられます。このうち、大柴胡湯は胸脇苦満が強く便秘がちなガッチリタイプの実証向けです。より虚証であれば、小柴胡湯ないしは柴胡桂枝湯を用います。柴苓湯は小柴胡湯と五苓散を合わせた方剤で、慢性化した三叉神経痛や帯状疱疹後神経痛にも適します。帯状疱疹の急性期には五苓散だけのほうがよく効くかもしれません。

▼腎気丸
八味地黄丸(ハチミジオウガン)、六味丸(ロクミガン)、牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)とくに、高齢の人の足腰の痛みやシビレ感に向きます。冷えのある寒証には八味地黄丸を、そうでないのなら六味丸を用います。牛車腎気丸は、八味地黄丸に、牛膝(ゴシツ)と車前子(シャゼンシ)という生薬を加えたもので、糖尿病性末梢神経障害に対する有効性が示されています。

▼その他
桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)、五積散(ゴシャクサン)、苓姜朮甘湯(リョウキョウジュッカントウ)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)桃核承気湯と桂枝茯苓丸は、漢方でいう“お血”、いいかえれば血行不良を治す方剤です。したがって、“お血”をともなう足腰の痛みに適します。ガッチリタイプで便秘がちならば前者を、そうでないのなら後者を用います。これらは、月経トラブルを起こしやすい女性向きの方剤ですか、男性にも使用できます。そのほか、足腰が冷えて痛むときには、疎経活血湯や五積散、あるいは苓姜朮甘湯などを証に合わせて用います。

関節痛(漢)

▼関節痛向け方剤-1
越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)、桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)越婢加朮湯と桂枝加朮附湯は、関節痛や神経痛に用いられる代表的な方剤です。前者は熱・実証向き、後者は寒・虚証向きです。顔色がよく暑がりの人には越婢加朮湯を、冷え症で体の弱い人には桂枝加朮附湯ということになります。

▼関節痛向け方剤-2
麻黄湯(マオウトウ)、麻杏よく甘湯(マキョウヨクカントウ)、よく苡仁湯(ヨクイニントウ)、桂芍知母湯(ケイシャクチモトウ)これらには、痛みを発散して治す“麻黄”という生薬が含まれます。麻黄湯は急性期で体力が保たれたいる実証の人に用います。麻杏よく甘湯は麻黄湯の変方で、より湿証向きです。やや慢性化し、実証ないし中間証の人には、苡仁湯がよいでしょう。苡仁湯には、血行をよくする当帰(トウキ)や芍薬(シャクヤク)が配合されているので、腫れをともなうときにも適します。

▼関節痛向け方剤-3
防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)、疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)、五積散(ゴシャクサン)、苓姜朮甘湯(リョウキョウジュッカントウ)、大防風湯(ダイボウフウトウ)、柴苓湯(サイレイトウ)膝の痛みには、防已黄耆湯が好んで用いられます。とくに、汗かきで水ぶとりタイプの寒・虚証の人に最適です。そのほか、足腰が冷えて痛むときには、疎経活血湯や五積散、苓姜朮甘湯などを証に合わせて用います。大防風湯は、病気が長びき体力が低下し、冷えをともなうときに向く処方です。

肥満症(漢)

▼肥満症向け方剤
大柴胡湯(ダイサイコトウ)、防風通聖散(ボウフウツウショウサン)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)肥満の多くは、エネルギーが充満している熱・実証タイプです。この場合、エネルギーを抜く瀉性の方剤を用いるのが基本です。大柴胡湯は、胸脇苦満が強く筋肉質でガッチリタイプの肥満に用います。防風通聖散は、おなかの突き出た太鼓腹の人に好んで用いられます。桃核承気湯は便秘がちで月経トラブルのある女性に向きます。これらの方剤は熱・実証用で、体の弱い虚証の人や軟便傾向の人には不向きです。寒・虚証タイプの肥満によく用いるのが防已黄耆湯です。冷え性なのに汗かき、色白でなよっとした水ぶとりタイプの女性に好適です。肥満の場合、これらの基本処方に「よく苡仁(ヨクイニン)」を加えることがあります。よく苡仁には、利尿作用のほか、脂肪の分解を助ける働きがあるともいわれます(本当のところはよく分かっていません)。

糖尿病(漢)

▼腎気丸
八味地黄丸(ハチミジオウガン)、六味丸(ロクミガン)、牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)糖尿病によく処方されるのは、地黄(ジオウ)を主薬とする腎気丸の仲間です。とくに、足腰の痛みやシビレ感、夜間頻尿などがあるときに向きます。冷えのある寒証には八味地黄丸を、そうでないのなら六味丸を用います。牛車腎気丸は、八味地黄丸に、牛膝(ゴシツ)と車前子(シャゼンシ)という生薬を加えたもので、糖尿病性末梢神経障害に対する有効性が示されています。

▼その他
白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)、大柴胡湯(ダイサイコトウ)、防風通聖散(ボウフウツウショウサン)、五苓散(ゴレイサン)など白虎加人参湯は熱証用です。体がほてり、のどが渇く人に最適な方剤です。大柴胡湯は、胸脇苦満が強く便秘がちなガッチリタイプに用います。防風通聖散は、太鼓腹で肥満傾向のある人に向く方剤で、肥満解消にも少し役立つかもしれません。

肝臓(漢)

▼柴胡剤-1
小柴胡湯(ショウサイコトウ)肝臓の病気には、柴胡剤の仲間がよく使われます。柴胡剤は熱をとりますので、肝臓が熱を持っているとき、つまり炎症を起こしているときに適します。柴胡剤のうち小柴胡湯は、病院で一番使われてきた漢方薬です。体力が中くらいの「中間証」で、病気の段階がわりと初期の「少陽病」に用いられます。肝炎に当てはめるなら、急性期から慢性期に移行する段階で体力もまだまだ残っている状態です。肝硬変まで進み、体力がひどく落ちている人には使えません。それと、小柴胡湯とインターフェロンの併用は禁止されています。間質性肺炎という重い副作用がでやすくなるためです。

▼柴胡剤-2
大柴胡湯(ダイサイコトウ)、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、柴苓湯(サイレイトウ)大柴胡湯は実証用です。胸脇苦満が強く便秘がちなガッチリタイプに向きます。逆に、柴胡桂枝湯は、やや体力のない虚証向けの方剤で、痛みをともなうときに適します。柴苓湯は小柴胡湯と五苓散を合わせた方剤で、むくみや下痢など水毒をともなうときに用います。

▼その他-1
茵ちん蒿湯(インチンコウトウ)、茵ちん五苓散(インチンゴレイサン)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)など茵ちん蒿湯は、黄疸に推奨される漢方薬です。ただし、下剤成分の大黄が含まれますので、下痢をしていたり、体力が衰えた虚証の人には向きません。その場合は、茵ちん五苓散を用いたりします。桂枝茯苓丸は、漢方でいう“お血”いいかえれば血行不良を改善する方剤です。これらに柴胡剤を組み合わせることもあります。

▼その他-2
人参湯(ニンジントウ)、四君子湯(シクンシトウ)肝臓に炎症がない場合もしくは落ち着いている場合で、体質的に寒証であれば、温性の人参湯や四君子湯などを用います。その他、証(体質)に合わせて、いろいろな方剤が使われます。

便秘・痔(漢)

▼便秘(実証)向け方剤
大柴胡湯(ダイサイコトウ)、防風通聖散(ボウフウツウショウサン)、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)、調胃承気湯(チョウイジョウキトウ)、大承気湯(ダイジョウキトウ)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、通導散(ツウドウサン)、大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)、大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)これらは熱・実証向けで、ガッチリタイプの人の便秘に向きます。大柴胡湯は、胸脇苦満(きょうきょうくまん)の強い人に用いるようにします。防風通聖散は、太鼓腹で肥満傾向のある人に好んで用いられます。三黄瀉心湯は、顔のほてり、イライイラなど"気"の上昇がみられるときに適します。そのほか、調胃承気湯は腹部の膨満感が強いときに、また桃核承気湯や通導散は月経トラブルのある女性の便秘に向きます。大黄甘草湯は、大黄と甘草の2種の生薬からできていて、証にかかわらず広く用いることができます。

▼便秘(虚証)向け方剤
桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ)、潤腸湯(ジュンチョウトウ)、麻子仁丸(マシニンガン)体力のない寒・虚証で、おなかが張っているときには、桂枝加芍薬大黄湯が向きます。高齢の人の乾燥したコロコロ便には、湿性の潤腸湯や麻子仁丸が使われます。

▼痔疾向け方剤
乙字湯(オツジトウ)、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)、紫雲膏(シウンコウ)漢方では、痔核を肛門の血流障害"お血"によるものとし、また、脱肛を下向きの症状"降証"の表れとします。したがって、お血や降証を改善する方剤が重要です。これにくわえ、胃腸を丈夫にし便秘や下痢を予防する方剤も使われます。一般的には乙字湯がよく処方されますが、体の弱い寒・虚証タイプで便秘のない人には、補中益気湯のほうが向きます。胃腸を丈夫にし、降証を改善する方剤です。そのほか、紫雲膏という漢方の塗り薬もあります。

胃腸(漢)-2

▼寒証用(1)
六君子湯(リックンシトウ)、四君子湯(シクンシトウ)、茯苓飲(ブクリョウイン)、人参湯(ニンジントウ)六君子湯は、寒・虚・湿証向けの代表的な方剤で、病院でもよく処方されています。その名前は、6種類の優れた生薬からできていることに由来します。食欲不振、もたれ、吐き気、胃痛などの不快な症状を改善します。もしも、下痢をしているのなら四君子湯を、胸やけが強ければ茯苓飲も適します。

▼寒証用(2)
安中散(アンチュウサン)、平胃散(ヘイイサン)、桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)、小建中湯(ショウケンチュウトウ)、真武湯(シンブトウ)安中散は、胸やけや胃痛に向く方剤です。平胃散は、おなかが張ってゴロゴロしたり、下痢をともなうような胃炎に適します。桂枝加芍薬湯は、おなかの膨満感や腹痛に有効で、下痢と便秘を繰り返す「過敏性腸症候群」によく使われます。胃腸が弱く疲れやすい人、ことに虚弱な子供に最適なのが小建中湯です。真武湯は、寒・虚・湿証の程度が強く、めまいや下痢をともなうときに向きます。

▼その他
芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)芍薬甘草湯は漢方の痛み止めです。とくに、腹部のけいれん性の痛みに有効です。芍薬と甘草の2種類の生薬だけでできていて、証にこだわらず広く用いることができます。長期に続けるときは、むくみや血圧の上昇に注意します。

胃腸(漢)-1

▼熱証用(柴胡剤)
小柴胡湯(ショウサイコトウ)、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、四逆散(シギャクサン)、柴苓湯(サイレイトウ)、大柴胡湯(ダイサイコトウ)柴胡剤(サイコザイ)の仲間は、胃腸の調子が悪いときにもよく使います。熱証で胸脇苦満(きょうきょうくまん)をめやすに用いる方剤です。代表的な小柴胡湯は、体力が中くらいで、口が苦い、食欲がないといった症状のあるときに向きます。もし、胃痛があれば柴胡桂枝湯や四逆散を、下痢や嘔吐があれば柴苓湯を用います。大柴胡湯は、胸脇苦満が強く便秘がちな実証タイプに向く方剤で、胃痛、吐き気、便秘などの症状をやわらげます。

▼熱証用(その他)
半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)、黄連湯(オウレントウ)、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)、五苓散(ゴレイサン)、胃苓湯(イレイトウ)瀉心湯(シャシントウ)の部類は、心下痞(しんかひ)といってミゾオチのつかえ感をめやすに用います。このうち、半夏瀉心湯は、もたれ、吐き気、ゴロゴロ、下痢など湿性の胃腸症状に広く使われます。黄連湯と黄連解毒湯は、熱・実証タイプの胃腸症状に用います。五苓散は、口が渇き、ムカムカ吐き気がするときに向く方剤で、二日酔いや乗り物酔いにも用います。

鼻炎・蓄膿(漢)

▼麻黄剤
小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、葛根湯(カッコントウ)、麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)、葛根湯加川きゅう辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)花粉症やアレルギー性鼻炎で、クシャミや鼻水が止まらないときには、小青竜湯がよく使われます。葛根湯は、頭痛や肩こりがあり鼻づまりを伴うときに向きます。体が弱く冷えのある人には、麻黄附子細辛湯がよいでしょう。葛根湯加川きゅう辛夷は、葛根湯に"川きゅう"と"辛夷"という生薬を加えた方剤です。鼻づまりを改善する作用があり、蓄膿症によく処方されています。

▼その他
甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)、辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)、荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)苓甘姜味辛夏仁湯は、体の弱い寒・虚証タイプで、痰や咳をともなう鼻炎に向きます。辛夷清肺湯と荊芥連翹湯は、熱証の鼻づまり症状に用います。

喘息・COPD(漢)

▼麻黄剤
麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)、五虎湯(ゴコトウ)、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、神秘湯(シンピトウ)麻黄剤(マオウザイ)は表証向けの方剤です。したがって、急性の発作時や症状の悪化したときに用います。熱をとる石膏を含む麻杏甘石湯と五虎湯は熱証向きです。寒証で痰や鼻水の多いときは、小青竜湯のほうが向きます。

▼柴胡剤
小柴胡湯(ショウサイコトウ)、大柴胡湯(ダイサイコトウ)、柴朴湯(サイボクトウ)、柴陥湯(サイカントウ)柴胡剤(サイコザイ)が適する証は、熱証・半表半裏です。ふつう、体質改善効果を期待して定期服用します。中間証であれば小柴胡湯を、実証であれば大柴胡湯ということになります。柴朴湯は、小柴胡湯に咳をしずめる半夏厚朴湯を合わせた方剤で、喘息治療薬として広く用いられています。

▼その他
四君子湯(シクンシトウ)、小建中湯(ショウケンチュウトウ)、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)、麦門冬湯(バクモンドウトウ)、清肺湯(セイハイトウ)寒証には四君子湯や小建中湯が向きます。半夏厚朴湯は上昇する"気"をしずめる方剤で、痰が多くゼーゼーこみ上げてくる症状に適します。四君子湯と併用したり、小柴胡湯と合方した柴朴湯として処方されることも多いです。麦門冬湯は、痰の少ない空咳に最適です。

カゼ(漢)-2

▼柴胡剤
小柴胡湯(ショウサイコトウ)、大柴胡湯(ダイサイコトウ)、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)柴胡(サイコ)という生薬を主薬とする方剤の仲間です(柴胡剤)。カゼがこじれて症状が胸に移りつつある"半表半裏"のときに用います。ノドの奥に痰がからみ、胸やミゾオチに違和感を生じたり、咳も胸からでるようなときに向きます。中間証向けの小柴胡湯、実証向けの大柴胡湯、虚証向けの柴胡桂枝湯、もっと虚証向けの柴胡桂枝乾姜湯などがあります。

▼その他(咳・痰)
半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)、麦門冬湯(バクモンドウトウ)、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、柴朴湯(サイボクトウ)、柴陥湯(サイカントウ)、清肺湯(セイハイトウ)、滋陰降火湯(ジインコウカトウ)、苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)これらは、咳や痰が多いときに用います。漢方では、咳を上昇する"気"のあらわれととらえます。半夏厚朴湯は、この上昇する"気"をしずめる方剤で、冷えのある人(寒証)の咳に向きます。麦門冬湯は、切れの悪いねばっこい痰を出しやすくする湿性の方剤で、空咳に向きます。逆に、うすい水っぽい痰がたくさん出るときは燥性の小青竜湯を使います。柴朴湯は小柴胡湯と半夏厚朴湯を合わせた方剤で、半表半裏を目安に用います。病院では、喘息の治療によく使われています。

カゼ(漢)-1

▼麻黄剤
葛根湯(カッコントウ)、5200075 小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、麻黄湯(マオウトウ)、麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)麻黄(マオウ)という生薬を含む方剤の仲間です。これらは、表証、すなわちカゼの引きはじめで悪寒のあるときに適します。ただし、発汗作用があるので、汗がたくさん出ているときには使えません。有名な葛根湯は、体力が中くらい以上の人に広く用いることができます。もし、クシャミや鼻水が多ければ燥性の小青竜湯を、頭痛や関節痛があれば麻黄湯なども処方されます。麻黄附子細辛湯は、虚弱な人で悪寒の強いときに向く方剤です。西洋薬のカゼ薬(PL顆粒)との比較試験で高い有効性が示されています。

▼その他
桂枝湯(ケイシトウ)、香蘇散(コウソサン)桂枝湯は、体力があまりなく汗の出やすい人のカゼの初期症状に用います。香蘇散は、胃腸の弱い人に向きますが、鼻水・咳止めの効果はあまり期待できません。

漢方薬の副作用

漢方薬の副作用でわりと多いのは胃腸症状です。

吐き気、食欲不振、もたれ、腹痛、下痢などです。
地黄(ジオウ)、当帰(トウキ)、川きゅう(センキュウ)、山梔子(サンシシ)、大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)などが配合される漢方薬でよくみられます。
一時的な吐き気や食欲不振は、ニガミや臭い、胃粘膜への刺激による反射性のものが多く、しだいに慣れてくることもあります。
食前の服用から食後に変更することもできますから、医師と相談してみてください。
腹痛と下痢は、大黄もしくは芒硝によるものが多いのですが、その他の方剤でも腸内細菌のバランスの変化により下痢を起こすことがあるようです。
胃腸症状のほかはめったにありませんが、甘草(カンゾウ)という生薬により、浮腫(むくみ)を生じたり血圧が上がってしまうことがあります。
とくに、これを多量に含む芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)の長期服用時、あるいは複数の方剤の長期併用時に注意が必要です。

そのほか、人によってはアレルギー症状を起こすことがあります。
発疹や肝機能の異常、あるいは膀胱炎のような症状となってあらわれます。
きわめてまれですが、柴胡剤(サイコザイ)による重い間質性肺炎や肝障害も報告されています。

麻黄を含む方剤 → 動悸(ドキドキ)、不眠

大黄を含む方剤 → 腹痛、下痢、耐性(効きが悪くなる)、かえって便秘

芒硝を含む方剤 → 腹痛、下痢、浮腫(むくみ)

地黄を含む方剤 → 吐き気、もたれ、食欲不振

甘草を含む方剤 → 浮腫(むくみ)、血圧上昇

附子を含む方剤 → 吐き気、ほてり、しびれ、発汗、動悸

柴胡剤など → アレルギー症状(発疹、肝機能異常、肝障害、間質性肺炎、膀胱炎など)

漢方薬の効果-3

いくつかの漢方薬では、西洋医学的な臨床試験もおこなわれています。

前項で取り上げた小青竜湯(ショウセイリュウトウ)や大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)、大建中湯(ダイケンチュウトウ)などでは、実薬とプラセボ(にせ薬)を使った比較試験もおこなわれ、その有効性が確かめられています。

小青竜湯の例では、アレルギー性鼻炎に対し、実薬を飲んだグループの約45%の人に効果があったのに対し、プラセボでは13%にとどまりました。

慢性疾患の例としては、小柴胡湯(ショウサイコトウ)の肝機能改善効果、牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)の糖尿病性神経障害に対する効果が認められています。

糖尿病性神経障害のある人に牛車腎気丸を飲んでもらったところ、78%の割合で足の脱力感、しびれ感などの自覚症状が改善されたそうです。

ほかにも、西洋薬の吐き気止めと漢方胃腸薬の効果を比較したところ、漢方薬のほうに軍配があったという報告などがあります。

このように、一部の漢方薬については、科学的な手法によりその効果が確認されています。
けれど一方で、多くの漢方薬は、いまだ有効性と安全性の検討が十分されていません。

現在、約150種類の漢方薬が薬価収載されますが、きちんとした臨床試験(治験)を受けずに承認されているのです(漢方薬の特権です・・)。
証による使い分けなど臨床試験のやりにくい面もあることは確かですが、公的な保険薬である以上、やはり科学的な検証も欠かせないはずです。

なお、漢方薬大手メーカーのツムラは、慢性腎不全に用いる温脾湯(おんぴとう)の新規承認をめざし、通常の新薬と同様の臨床試験(治験)を実施しましたが、良い結果がでず開発は中止されました。

漢方薬の効果-2

漢方薬に使われる生薬の化学的な分析もおこなわれています。

たとえば、葛根湯(カッコントウ)や小青竜湯(ショウセイリュウトウ)に含まれる麻黄(マオウ)という生薬には、交感神経刺激薬のエフェドリン系の有効成分が含まれます。
エフェドリン系の薬は、西洋医学でも咳や鼻炎の治療薬として使われており、効能的にもぴったり一致します。
漢方薬の有効性を示す証拠といえるでしょう。

一方で、エフェドリンとしての効果だけでなく、その副作用や飲み合わせにも注意が必要なわけです。便秘によく使われる承気湯(ジョウキトウ)の例もあげましょう。
大黄(ダイオウ)や芒硝(ボウショウ)を含む方剤の仲間です。
大黄は中国原産の薬用植物で、アントラキノン系の大腸刺激性の下剤成分を含んでいます。
もう一つの芒硝は天然の塩類下剤といえます。
いわゆる芒硝泉の温泉に含まれる成分と同じで、化学的には硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムを含有します。
これらの有効成分は、西洋医学的にも下剤として用いるものです。
ある意味、効果があるのは当然で、なんの不思議もないのです。と同時に、一般的な下剤にみられる腹痛や下痢、長期服用時の耐性や電解質異常などの副作用も起こりうることを意味します。

このように、いくつかの漢方薬では、その有効成分と薬理作用が解明されています。
ただし、そこから推測される効果は、なんら西洋医学的、対症療法的な効果とかわりません。

漢方薬がもつとされる体質改善的な効果、他の生薬の配合意義、証との関係を証明することにはなりません。

漢方薬の効果-1

漢方薬の有効性と安全性は、数千年におよぶ歴史的スクリーニングからみいだされました。
平たくいうと、「この人の症状(証)に、この生薬を組み合わせたら、よく効いた」とか「あの人の症状(証)に、あの生薬を組み合わせたら、かえって悪化した」といった長年の臨床経験の積み重ねによるものです。
漢方医学とは、そのような経験をもとに「証」と「方剤」の関係を理論的に体系化したものです。
そこで使われる漢方薬も、基本的に経験にもとづく薬です。
ですから、必ずしも科学的に有効性が確かめられているわけではありません。
そして、漢方薬にも得意不得意があります。
一般的にいって、漢方薬の効果はゆるやかです。
鎮痛薬のように今起きている痛みを確実に止めるとことは不得意ですし、血圧を十分に下げたり、病原菌を退治することもできません。
それでは、どのような病気に向くのでしょう。

第一に、器質的な異常を伴わない「機能異常」があげられます。
たとえば、機能性胃腸症(慢性胃炎)による食欲不振や吐き気、便秘や下痢、肩こり、生理不順、冷え性などです。
第二は、アトピー、喘息、鼻炎などのアレルギー性の病気です。
さらに免疫系がかかわる肝炎、ネフローゼ、リウマチなどに対して補助的に用いることもできます。
漢方薬は決して万能な薬ではありません。
西洋薬が絶対に必要となるケースも多いものです。緩和医療のひとつの選択肢と考えるべきでしょう。

証と方剤

漢方薬の処方は、陰陽理論にもとづかなければなりません。
大局的にいえば、陰証の人にはエネルギーを補う方剤を、陽証の人にはエネルギーを使わせ病因を追い出す方剤を用います。
もし誤って、陰の人にエネルギーを消費させる処方を用いれば、効果がないばかりか、かえって体を弱らせてしまいます。
基本的な八網分類の使い分けは次のようになりす。

表証には → 発散薬(麻黄剤など体の表面の病因を発散させる方剤)

裏証には → 裏証用薬(麻黄剤などを除く多くの方剤)

熱証には → 寒性薬(熱や炎症をとり、機能の亢進をしずめる方剤)

寒証には → 温性薬(体をあたため、機能を高める方剤)

実証には → 瀉性薬(体内のエネルギーを消費させ、そのパワーで病因を追い出す方剤)

虚証には → 補性薬(エネルギーを補い、病気と戦うパワーをつける方剤)たとえば、カゼのひき始めでゾクゾク寒気がするときは、表・寒の証になります。
したがって、発散性の温性薬が向くことになります。
その代表が葛根湯(カッコントウ)です。
この有名な方剤は体力が中程度以上の人に広く用いることができます。
もし、体力の充実した明らかな実証であれば、強い発散性の麻黄湯(マオウトウ)も使われます。
逆に、汗のでやすい体力のない虚証の人には、麻黄を含まない補性の桂枝湯(ケイシトウ)を用いなければなりません。

カゼをこじらせると、表証から裏証に移ります。
ノドの奥に痰がからみ、胸やミゾオチに違和感を生じたりします。
咳も胸からでるようになり、気管支炎を起こしていることもあります。
半表半裏のこの段階は、柴胡剤のよい適応です。
その代表が小柴胡湯(ショウサイコトウ)で、体力が中程度の人に用いることができます。
もし、がっちりタイプで便秘がちの実証であれば大柴胡湯(ダイサイコトウ)を使うことになります。
逆に虚証の人には、より補性の方剤、たとえば柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)や柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)を用います。
もし咳がひどければ、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)や、これに小柴胡湯を合わせた柴朴湯(サイボクトウ)なども使われます。
半夏厚朴湯には、上昇する"気"をしずめる作用があるといわれます(咳は“気”の上昇の一つの表れ)。
このように、カゼだけに限っても、証に合わせていくつもの方剤を使い分けなければなりません。
同じ病気でも、人により、また時期により処方する漢方薬が違うのです。

証の診断

漢方の“証”には、検証の“証”と同じような意味合いがあります。

漢方治療は証をチェックすること、つまり体の状態を検証することからはじまります。
その具体的な方法として、4つの診察法があります。

「望診(ぼうしん)」、「聞診(ぶんしん)」、「問診(もんしん)」、「切診(せっしん)」の4つです。
これをまとめて四診(ししん)と呼びます。

望診は視覚による診察です。
体格、顔色、肌の状態、表情、舌などをみます。
たとえば、体がガッチリし顔色もよければ、実証で熱証とみなす手がかりになります。
逆に、体が弱々しく顔色が蒼白ければ、虚証で寒証、血虚の可能性がでてきます。

聞診は、声の大きさ、胸の音、呼吸、咳などから情報をえます。
声が大きく張りがあれば実証で気のめぐりもよいと考えられますし、逆に、力のない小さな声ならば気が不足した気虚の状態かもしれません。

問診は、病歴やアレルギーの有無、体の状態を患者さんから細かく聞きとります。
問診は、とても重要な情報源になるはずです。
つらい症状があれば、どんなことでも伝えておくようにしましょう。

切診では、実際に体を触って、“お血”や“胸脇苦満”、“臍下不仁”などをチェックします。
たとえば、下腹部の抵抗や圧痛は“お血”の重要な判断基準になりますし、また、肋骨下部に張りや圧痛があれば“胸脇苦満”と判断し柴胡剤の使用目安とします。

このような四診をもって、患者さん固有の証が決定されます。
そして、陰陽理論にもとづき、その証と一致する方剤が処方されます。
証に適合した漢方薬の服用により、体全体のバランスが整えられ、病気の治癒に結びつくわけです。

その他の証

基本的な「陰陽理論(八網分類)」と「気血水」について述べてきましたが、そのほかにも、いろいろな証のとらえ方があります。
各古典書ないし流派にもよるのですが、実際的と思われるものをいくつか示します。

上衝(じょうしょう)..気の上昇(のぼせ、イライラ、興奮、緊張、不安、不眠、頭痛、咳、めまい、動悸)

気滞(きたい)または気鬱(きうつ)..気の下降・停滞(憂うつ、抑うつ、不安感、不眠)

気虚..気の不足(元気ない、心身疲労、無気力、抑うつ、不安感)

升証(しょうしょう)..上に向かう症状が強い(のぼせ、イライラ、興奮、咳、しゃっくり、嘔吐、吐血、便秘、無月経)。

降証(こうしょう)..下に向かう症状が強い(憂うつ、抑うつ、下痢、月経過多、脱力)。

お血(おけつ)..血の停滞(うっ血、充血、腫れ、紫斑、出血、血栓)

血虚(けっきょ)..血の不足(貧血症状、蒼白い、めまい、疲れ、息切れ)

燥証(そうしょう)..水の不足(皮膚の乾燥、空咳、口の渇き、コロコロ便、脱水)。

湿証(しっしょう)..水の過剰(むくみ、胃のチャポチャポ、おなかのゴロゴロ、下痢、湿咳、うすい痰や鼻水) → 狭義の水毒と同じ意味合い。

胸脇苦満(きょうきょうくまん)..ミゾオチから肋骨下部付近の張り、抵抗・圧痛 → 半表半裏の目安となり、柴胡剤のよい適応。

心下痞(しんかひ)..ミゾオチ付近のつかえ感 → 瀉心湯のよい適応。

臍下不仁(さいかふじん)..オヘソより下の下腹部に力がなくフニャフニャ → 八味丸のよい適応。

三陽病・三陰病(狭義の陰陽)..病期の分類(太陽病 → 少陽病 → 陽明病 → 太陰病 → 少陰病 → 蕨陰病)。

気血水

「気血水(きけつすい)」の3つの考え方も、証をみるうえで欠かせません。

1番目の“気”は、「病は気から」の気に通じるものです。
気は、形をもちませんが、体の調子にもかかわっています。
たとえば、イライラやのぼせ、不安や緊張は気の上昇(上衝)と考えられ、そのような状態が続けば胃腸の調子が悪くなったり、血圧が上がってしまうこともあります。
逆に気の下降、あるいは不足や停滞は抑うつを招き、やはり体調をくずしかねません。
西洋医学でいう心身症や仮面うつ病は、気の異常から生じる病気ととらえることができます。
気に働く代表的な方剤に、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)や柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)、酸棗仁湯(サンソウニントウ)などがあります。

2番目の“血”は、広い意味での血流にあたります。
さらに漢方では、血流の異常を”お血”(おけつ)および“血虚”(けっきょ)という概念でとらえます。
”お血”は血流停滞(うっ血)、“血虚”は血流不足(貧血)とみなせます。
女性の月経トラブルやいやゆる「血の道症」には、そのような”お血”を取り去る「駆お血薬」や、“血虚”を改善する「補血薬」が使われるものです。
前者の代表例として桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)や桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、後者には当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)や四物湯(シモツトウ)などがあります。

3番目の“水”は、体内の水分のことです。
漢方では、水分循環の異常を広く“水毒”(すいどく)といい、また水分の過剰を“湿証”(しっしょう)ともいいます。
具体的な症状としては、むくみ、嘔吐、下痢、痰、鼻水、喘息、めまい、関節痛などです。湿証を改善する方剤には、五苓散(ゴレイサン)、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジツテンマトウ)、猪苓湯(チョレイトウ)などがあります。
いずれも水分を抜く燥性の方剤です。

健康な状態では、気血水が過不足なく、また停滞することなく体をめぐっています。
そうでないのなら、その状態を改善する方剤を用いて、正常化するようにします。これが、漢方の「気血水」の理論です。

八網分類

前項の陰陽理論は全般論的なので、これをもう少し実践的に分類した「八網分類」があります。
病位を意味する「表・裏(ひょう・り)」、病性をあらわす「熱・寒(ねつ・かん)」、病勢の「実・虚(じつ・きょ)」にもとづく分類です。
比較的シンプルな考え方で理論的でもあるので、西洋医学を学んだ医師や薬剤師にも受け入れやすい分類法です。
表・裏..本来は、病気の部位をさしますが、病気の進行の程度も示します。
「表証」は、病気が体の表面近くで起きている急性症状です。
たとえば、カゼの引きはじめ、エヘンエヘンするノドの咳、鼻水の多い鼻炎、じん麻疹、ものもらい、などです。
表証に用いる代表的な方剤に、葛根湯(カッコントウ)や小青竜湯(ショウセイリュウトウ)があります。
一方、「裏証」は、こじれたカゼ、ゴホンゴホンする胸の咳、蓄膿症、その他の内臓の病気、あるいは慢性的な病気をいいます。
病気が体の裏側や奥に入った状態です。
裏証のうち、胸からミゾオチ付近までの症状を、とくに「半表半裏(はんぴょうはんり)」といいます。
この証には、柴胡剤(サイコザイ)という方剤が適当です。
狭義の裏証は、ミゾオチより下の腹部の症状をさすことになります。

熱・寒..「熱証」は、顔色が赤く、熱を帯びホカホカしている状態です。
炎症を生じていたり、亢進的な状態も含まれます。
これに対し「寒証」は、顔色が白く、冷えてゾクゾクする場合です。
機能の衰えたアトニー的な状態も含まれます。
漢方でいう熱・寒は、体温計による熱とは必ずしも一致しません。
カゼの発熱時のゾクゾクする悪寒は「寒証」です。

実・虚..「実証」は体力が充実している状態をいいますが、排除されるべき病因が強いということも含まれます。
「虚証」は、体力がなく病気に対する抵抗力が弱っている状態です。
なお、これらの中間を、便宜的に「中間証」と呼ぶことがあります。
これらを組み合わせると、8つのタイプの証になります。
すなわち、表熱実、表熱虚、表寒実、表寒虚、裏熱実、裏熱虚、裏寒実、裏寒虚です。
これをもって「八網分類」とするわけです。
大局的に陰陽理論を当てはめるなら、一番目の表熱実はより陽証であり、最後の裏寒虚はもっとも陰に過ぎる状態といえるでしょう。

陰陽理論

証(しょう)とは、体質や体力、病状などを合わせて、その時点の体の状態をあらわすものです。
漢方薬の処方にあたっては、まずその人の証を見きわめなければなりません。
逆にいえば、証が決まれば、おのずと方剤も決まってくるのです。
同じ病気でも、証が違えば別の漢方薬を用いることになります。
このような証にもとづく治療法を「随証治療」とか「弁証・論治」といいます。
この証を判定するための、もっとも基本的なモノサシが「陰陽(いんよう)」の理論です。
流派により少し考え方が異なりますが、おおざっぱにいえば、陰は「体力が低下しエネルギーが不足している状態」、陽は「体力が充実しエネルギーが充満している状態」です。
そして、陰でもなく陽でもないバランスのよい状態を「中庸(ちゅうよう)」とします。
漢方治療の大原則は、陰の人にはエネルギーを補う方剤を、陽の人には体のエネルギーを使わせ病因を追い出す方剤を用いることです。
一言でいえば、「不足なら補い、余分なら出す」ということです。
体全体のバランスを整えながら、病気を治していくわけです。これが、漢方の陰陽理論です。