八網分類

前項の陰陽理論は全般論的なので、これをもう少し実践的に分類した「八網分類」があります。
病位を意味する「表・裏(ひょう・り)」、病性をあらわす「熱・寒(ねつ・かん)」、病勢の「実・虚(じつ・きょ)」にもとづく分類です。
比較的シンプルな考え方で理論的でもあるので、西洋医学を学んだ医師や薬剤師にも受け入れやすい分類法です。
表・裏..本来は、病気の部位をさしますが、病気の進行の程度も示します。
「表証」は、病気が体の表面近くで起きている急性症状です。
たとえば、カゼの引きはじめ、エヘンエヘンするノドの咳、鼻水の多い鼻炎、じん麻疹、ものもらい、などです。
表証に用いる代表的な方剤に、葛根湯(カッコントウ)や小青竜湯(ショウセイリュウトウ)があります。
一方、「裏証」は、こじれたカゼ、ゴホンゴホンする胸の咳、蓄膿症、その他の内臓の病気、あるいは慢性的な病気をいいます。
病気が体の裏側や奥に入った状態です。
裏証のうち、胸からミゾオチ付近までの症状を、とくに「半表半裏(はんぴょうはんり)」といいます。
この証には、柴胡剤(サイコザイ)という方剤が適当です。
狭義の裏証は、ミゾオチより下の腹部の症状をさすことになります。

熱・寒..「熱証」は、顔色が赤く、熱を帯びホカホカしている状態です。
炎症を生じていたり、亢進的な状態も含まれます。
これに対し「寒証」は、顔色が白く、冷えてゾクゾクする場合です。
機能の衰えたアトニー的な状態も含まれます。
漢方でいう熱・寒は、体温計による熱とは必ずしも一致しません。
カゼの発熱時のゾクゾクする悪寒は「寒証」です。

実・虚..「実証」は体力が充実している状態をいいますが、排除されるべき病因が強いということも含まれます。
「虚証」は、体力がなく病気に対する抵抗力が弱っている状態です。
なお、これらの中間を、便宜的に「中間証」と呼ぶことがあります。
これらを組み合わせると、8つのタイプの証になります。
すなわち、表熱実、表熱虚、表寒実、表寒虚、裏熱実、裏熱虚、裏寒実、裏寒虚です。
これをもって「八網分類」とするわけです。
大局的に陰陽理論を当てはめるなら、一番目の表熱実はより陽証であり、最後の裏寒虚はもっとも陰に過ぎる状態といえるでしょう。